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片岡慎介さんの「純愛」のこと

2月に亡くなった音楽家・片岡慎介さんのことについて、ラジオパーソナリティ、ナレーション、司会、音楽評論、インタビュアー&ライターとして活躍中の武田はるかさんがご自身のホームページ上で書かれています(http://takedaharuka.jp/pureheart/)。

2010年05月28日付けの「純愛〜たったひとつの愛を貫いて」というタイトルの文章です。

最近、サトルエネルギー学会の理事に就任した武田さんの許可をいただいて、その一部を転載いたします。

 

 

*初めて知った家庭での片岡さんの姿

 

私も結婚して20数年になりますが、その間、山あり谷あり、結婚は魂の磨きあいだなぁと思うこともしばしば。

先日も河口湖に一泊の出張をしたのですが、私が家を出るとき、主人がものすごく嬉しそうでした(苦笑)。ま、ひとりで伸び伸びする時間も欲しいのでしょう。

夫婦は時の流れと共に、独身時代の燃えるような恋愛感情がいつしか家族としての強い絆に変化していきます。呼び名もパパママになり、お互い空気のような存在になり…。ふとした瞬間、ヨン様にハマるというのも分かりますね。

しかし、世の中には新婚当初そのままのような夫婦もいるのです。それが片岡慎介さんご夫妻です。

 

片岡さんが亡くなられて四十九日の納骨前、アーユルヴェーダの西川眞知子先生と片岡家にお伺いしたときのことでした。

それは私たちがお願いしてお話いただいたというより、片岡さんの生前の思い出話として自然に、奥様とお姉さま、お嬢様がお話くださったのでした。

聞いてビックリ! 私たちが知っている片岡慎介さんは、ダンディで人に対して心配りの行き届いた本当に優しい方でしたが、実はご家庭ではその何倍も優しくてお茶目な方だったのです。

 

 

*夜明けのコーヒーを飲みながら

 

片岡さんは音楽家でいらっしゃるので、お家での作業がほとんどで、ご家族と過ごす時間が長かったのでした。

元来、外に出るのはあまりお好きではなかったと伺い、これまたビックリ。

毎日、3時になると「お茶にしましょうか」とニコニコしながら仕事部屋から出てきて、美味しいお茶を自ら家族に入れてくださって、好物の甘いお菓子を幸せそうに召し上がっていらしたそうです。

結婚すると男性は段々、口数が減り、外では周囲と大いに語らい、優しく理解ある社会人として活躍していても、家に帰ると奥様との会話は「風呂、飯、寝る」など、一日10分も無いなんて統計もあるほどです。

確かに我が家もご他聞にもれず、新婚当初と比べれば、夫婦の会話はグンと減っていますね。話さなくても分かるといったこともあるのでしょうが、あきらかに手抜きです(笑)。

ところが片岡家は違いました。奥様とふたりで夜通しお茶を飲みながら、ずっとお喋りされていたそうです。今日一日のこと、新しいCDのタイトルについて、お仕事でご一緒する人々のステキなところや、この先の計画などなど。それを毎晩、夜明け近くまで奥様とお話されていたそうです。

私が「もう眠いから、そろそろ話が終わらないかなと思ったことは無かったのですか?」と伺いましたら、「全然、そんなことありませんよ。ふたりで話しているのが楽しくて。主人の話を聞くのが私の仕事なのです」と。

さらに「ケンカしたことは?」には、しばし考えられて「無いですね〜。あえて言うならば、『パパ、今日はもう甘いお菓子、2個目ですよ。お控えください』と申しましたら、『プン!それならもういいです』と拗ねたことくらいでしょうか(笑)」。

私はインタビュアーとしての血が騒ぎ、「じゃあ、片岡さんの欠点は?」と伺いましたら、「う〜ん、無いですねぇ。まぁ、話が長いということくらいでしょうか(笑)」と。

さらにもうひとつ畳み掛けるように伺った質問に、驚きの答えが返ってきたのでした。

 

 

*僕にはママがいるじゃありませんか

 

多くの人が時にパートナーの愛を疑い、自ら苦しい世界に足を踏み入れてしまうことがありますよね。そこで、「男性はオスの本能として、種の保存と言う名目で浮気をすることがありますが?」という問いに、奥様はこう答えられたのです。

「私がこのような体なので、主人が外でお付き合いしている女性がいてもおかしくない、主人はモテるし、周りには綺麗な方がいっぱいいるでしょうし。そんな心の奥で抱えていた辛い気持ちを冗談めかして主人に聞いたとき、主人は目を真ん丸くして、『どうして?僕にはそんな人は必要ありませんよ。ママがいるじゃありませんか』と答えてくれたのです」。

奥様は2番目のお嬢さんを出産して一年後に、全身の神経に激痛が走るリュウマチを患われていたのです。そのため子育てや家事など奥様のお姉さまが全面サポートしてくださっていました。妻としてご主人の面倒を見ることが出来ない切なさ……。

そんな心身ともに痛みを抱える奥様を片岡さんは全身全霊で愛していらっしゃったのです。

「そうは言っても知らなかっただけじゃない?」と思う方のために、お姉さま、お嬢様のお話も添えておきましょう。

「ダディは本当にママが一番で、私たち子供は二番だったんです(笑)。家で食事をするのが好きなダディに、たまの外食で『今日は何が食べたい?たまには自分の好きなものを言ってね』と聞くと、決まって『パパの食べたいものは、ママの好きなものです』と言うんです」とお嬢様。

「慎介はどこにいても必ず、『今、現場についたよ。今、終わったよ、もうすぐ帰るよ。今、デパートだけどお土産は何がいい?』と必ずママに電話をしてくれていたので、居場所が分からないということがありませんでした」とお姉さま。

「父はユーモアがあって、物まねをしたり、いつも家族を笑わせてくれて、人を驚かせることが大好きでした」とお嬢様。

「人の良いところを見つけて、褒めて、応援するのが好きな人でした」とお姉さま。

まだまだお話は続きましたが、やがて私たちが知らなかった片岡さんの作る音楽の根底にある想いを教えて下さったのです。

片岡慎介さんは月のテンポ116の発見者であり研究家です。お月さまのゆったりしたリズムを取り入れた音楽を制作されて多くのファンがいます。

実はその音楽は、すべて奥様のために作られていたのでした。「主人が『この音楽ならママの痛いのが治るかな』と言って作品を創ってくれていたのです」。

片岡さんの音楽がどうしてあんなに優しく人の心の奥を緩め、癒してくれる旋律なのかが初めて分かりました。すべては愛する人のために、愛する人を癒すために……。

 

奥様は可愛らしいちょっとはにかんだ笑顔で、「一日に何度も『愛してる』って言ってくれるんです。私は恥ずかしくて『パパと同じ気持ちです』と言うんですが、『ちゃんと口に出して言ってくれなきゃダメ』と言われて」と教えてくださいました。

それを聞いた私たちは羨ましくてポ〜っとなってしまい、西川先生は「その離婚、ちょっと待った!という本を書きましょうよ!」と奥様の背中を押して、みんなで大笑いしたほどです。

お話はすべて現在形でした。まるでもうすぐ「ただいま〜」と片岡さんが帰ってくるみたいに……。

素晴らしい思い出ばかりなので、亡くされた悲しみがよりいっそう深く……。

お嬢様が「結婚は墓場だ、良いのは最初だけ。とよく言われますが、私は両親を見て育ったので『そんなことないのに』と、いつも違和感を持って聞いていました。結婚って素晴らしいと思います。私も両親のような結婚をします」と真っ直ぐな瞳でおっしゃったのが印象に残っています。(中略)

 

沢山のすばらしい音楽と思い出を作り、周囲を笑顔にして、ただひとり奥様を愛しぬかれてお月さまに還られた片岡慎介さん。

女性だったら誰もがこんな風に愛されたいと思うことでしょう。そしてこんな風に人を愛しぬきたい……。

「人類愛は、まず家庭から」と教えていただいたように思います。

目の前にいる人を幸せにしてこそ、世界が愛に満ちて平和になるのでしょう。

 

純愛って、こういうことなのかもしれませんね。

 

 

*このエッセイは片岡家から快いご了解を得て書かせていただきました。

(K)
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